「B'zの…
この前帰省したとき、夕飯を食べながら「笑ってコラえて」を見ていたら、その中で
「実は『初老』は40歳くらいの人のことを意味する」
というナレーションが流れた。
すると妹が、「じゃあお母さんもお父さんも50過ぎてるし、もう『老人』じゃん」と言った。
「たしかにそうなっちゃうね〜」と母が笑った。
フォローするタイミングを逃した僕は、そっと父の方に目をやった。父は、ザ・苦笑いといった感じで、なんとも言えない表情を浮かべていた。
僕がフォローし損ねたのは、妹の発言にどこか納得してしまったからだろう。
最近は、両親、特に父に老いを感じる場面が増えたように感じる。何か思い通りにいかないことがあると、面白くないとばかりにため息とボヤキが増える。典型的な田舎のおじさんだ。
数日後、そんな父とB'zのライブに行った。
僕はそこそこなB'zファンだ。正直、最近の活動はあまり追い切れてないけど、10代の頃は、父が集めたB'zのCDやDVDを引っ張り出してはよく部屋にこもって、彼らの音楽を聴き漁っていたし、ライブも毎年のように父と一緒に見に行っていた。中学の卒業文集では、ボーカルの稲葉さんの名言を引用してしまったこともある。
その日はB'zの30周年記念ツアーの最終日だったこともあって、最新の曲から昔の名曲まで、彼らは幅広く演奏してくれた。
そのおかげで、ライブは十分に楽しむことができた。
ライブ中、興奮する瞬間はたくさんあったけど、その中でも、聴いていて鳥肌が止まらなかった曲がある。
https://music.apple.com/jp/album/real-thing-shakes-single/1560086676
聴けばわかるけど、この曲はボーカルのキーが殺人的に高い(松本さんのギターもキレキレだけど、割愛)。
稲葉さんは父より3歳年上で、今年で54歳だ。
妹に言わせれば「老人」だ。
はっきり言ってこんな曲、とても50過ぎの老人が歌うような代物じゃない。
でも、だからこそ、「今目の前のステージで、デビュー30周年を迎えた老人が、若い頃のギラギラの塊のようなこの曲を全力で歌っている」という事実に、僕はバチボコに目を見張ってしまったし、それと同時に、なぜかとても嬉しくなった。
なんだ、いいじゃん「老人」。全然かっこいいじゃん。
ライブ後、都内のホテルに向かう車内では、父が、カーナビの難解な案内に振り回され、いつも通りボヤいていた。
「なんだよ『次の信号を左手前』って。いや『左』はわかるけどさ。『手前』って何よ。」
「『老人』じゃん。」
妹の台詞を飲み込んだ僕は、笑いをこらえながらスマホを取り出してグーグルマップを開き、案内を開始した。