中国行きの

 一度だけ、留学生と友達になったことがあった。

 

中国人。おでこが広くて髪の長い女の人。自分がまだ19のときで、その人はたしか25だったから、正直、友達と呼んでいいのかもよくわからない、遥か大人の女性って感じだった。

 

 

4月。大学の講義で知り合った。講義の内容は、毎回、指定された日本の文学を読んで、感想をグループで話し合うというものだった。

村上春樹の「象の消滅」という短編について、二人一組でレポートを書くことになった。彼女の日本語を添削してあげたり、日本のバンドを教えてあげたりするうちに、少し仲良くなった。

 

 

松島に行ってみたいと言われて、行くことにした。

朝から雨だった。入った定食屋で食べた天ぷらも、ちょっと湿気っていた気がする。

昼過ぎに遊覧船に乗った。なんとか雨は止んでいたけど、海は霧が立ち込めていて、景色は最悪だった。話すこともなくなって、あったかい船内でぼーっとしていたら、ついうたた寝してしまった。一瞬の船旅だった。

 

 

梅雨が過ぎ、前期が終わり夏休みに入って、久しぶりに会った。

来週帰国すると急に告げられて、びっくりを通り越して笑ってしまった。

 

 

その人は、故郷に帰って行った。

 

 

 

 

最後に会ったとき、前に貸していた the chef cooks me のアルバムを返すのと一緒に、中国の茶葉とポストカードをくれた。

 

お茶はあんまりおいしくなくて、全部使い切らないうちに悪くなってしまった。

 

ポストカードには、日本語、英語、中国語でメッセージが書かれていた。

日本語の部分には、一緒に遊べて楽しかったと書いてあった。

英語の部分には、またいつか会いましょうと書いてあった。

 

中国語の部分は、「謝謝」以外、なんて書いてあるのか、いまだに読めていない。